
はじめに:なぜ不良や事故はなくならないのか
製造現場では、品質不良や労働災害、納期遅延、コストオーバーといった問題が繰り返し発生します。「また同じミスか」と頭を抱えたことのある管理者も多いのではないでしょうか。多くの現場では、QCサークル活動やヒヤリハット報告(ハインリッヒの法則にもとづく取り組み)など、さまざまな改善手法が導入されています。しかしこれらは、どれも問題が起きた「後」の対処や、特定の部署・工程だけの局所的な改善にとどまりがちです。その結果、根本的な原因にはなかなかたどり着けていないのが現実です。
【補足】ハインリッヒの法則とは?
「1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハット(危うく事故になりそうだった経験)がある」という考え方です。ヒヤリハットを報告・収集して事故を未然に防ごう、という取り組みに広く使われています。では、問題の本当の根っこはどこにあるのでしょうか。遠藤メソッドは、この問いに対して明快な答えを提示します。
第1章:ヒューマンエラーは「原因」ではなく「結果」である
現場でミスが起きると、「ヒューマンエラーだった」と報告されることがほとんどです。しかし遠藤メソッドでは、ヒューマンエラーはあくまでも「結果」であり「原因」ではないと考えます。では、何がヒューマンエラーを引き起こすのでしょうか。その答えは「ノウハウ(暗黙知)が共有されていないこと」にあります。熟練した作業者は、長年の経験から「ここを確認しないと不良が出る」「このタイミングで判断しないといけない」という感覚を無意識のうちに身につけています。しかし、この感覚は本人の頭の中にあるだけで、文書や手順書には書かれていません。これを「暗黙知」といいます。暗黙知が共有されないまま作業が行われると、確認の仕方や判断の基準が人によってバラバラになります。これが「ムラ」です。そしてムラが積み重なると、不良・事故・納期遅延・コスト超過といった「ムダ」が生まれます。
【補足】暗黙知・形式知とは?
「暗黙知」とは、言葉や文書にしにくい、経験や感覚にもとづく知識のことです。一方「形式知」とは、マニュアルや手順書のように、誰でも読んで理解できる形にまとめられた知識です。優れた現場づくりには、暗黙知を形式知に変換することが欠かせません。
第2章:「出来栄え管理」の限界と「行為保証」という考え方
従来の品質管理では「出来栄え管理」が主流です。これは、作業が終わった後に完成品を検査して、良品か不良品かを判断するアプローチです。出来栄え管理には大切な役割がありますが、これだけでは不十分です。なぜなら、不良が出てからでないと問題に気づけないからです。不良品が出るたびに原因を探して対処するだけでは、同じ問題が繰り返されます。
【補足】出来栄え管理とは?
作業の「結果」を検査・確認することで品質を保証しようとする考え方です。抜き取り検査や全数検査などがこれにあたります。問題が起きてから対処する「後追い型」の管理ともいえます。
第3章:「ちゃんとやれ」をやめる ― 暗黙知を形式知へ
行為保証の核心は、曖昧な指示をなくすことです。よくある指示の例を見てみましょう。従来の指示:「ビスをちゃんと締めてくれ」この指示には「ちゃんと」の基準がありません。人によって解釈がバラバラになり、ムラが生じます。では、行為保証ではどう変わるのでしょうか。
行為保証の管理項目(ビス締め作業の例)
1.指示書通りの正しいビスが用意されているか?
2.ビスは対象物に対して垂直に入っているか?
3.トルクレンチで、規定のトルク(締め付け強さ)にクリック感を感じているか?
4.締め付け完了後、ビスが正しく着座(所定の位置に収まっている)しているか?
このように「何を」「なんで」「どのように」確認・判断するかを具体的に示します。これを遠藤メソッドでは「ロバスト3(何を・なんで・どのように)」と呼びます。熟練者が無意識にやっていたことを、誰でも実行できる行為として書き出す。これが暗黙知を形式知に変換するということです。
【補足】行為保証とは
遠藤メソッドが提唱するのが「行為保証」という考え方です。行為保証とは、結果を管理するのではなく「結果に至るまでのプロセス(過程)そのものを保証する」アプローチです。つまり「正しい行為を正しく実行すれば、正しい結果が得られる」という考え方に立ち、作業のプロセスを具体的に定義・管理します。
第4章:方法論を導入するだけでは足りない ―「習慣」から「文化」へ
行為保証という方法論を現場に導入することは、変革の始まりにすぎません。最も難しく、最も重要なのは、それを現場全員の「習慣」にすることです。
ステップ1:習慣化(無意識の意識化)
管理監督者(班長・職長・工場長など)は、作業者が行為保証の行為を意識せずとも自然に実行できるよう、粘り強く指導を続けます。実際の現場での経験では、ロバスト3の実行率が85%を超えると、不良がほぼゼロに近づくことが確認されています。正しいプロセスを習慣として定着させることが、結果として品質と安全の向上に直結するのです。
ステップ2:文化への昇華
しかし、習慣には弱点があります。それは、担当者が変わると失われるリスクがあることです。優秀なリーダーが異動・退職すれば、せっかくの習慣も元に戻ってしまう ― そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。これを防ぐためには、習慣を「組織の文化」にまで高める必要があります。具体的には、部長や班長などの管理監督者自身が、製造技術標準(正しい作業のあるべき姿を定めた基準書)を手に現場を巡回します。そして、事実にもとづいて「この行為が守られていない」「ここの判断が抜けている」と具体的に指摘・指導します。ポイントは「見てからアクションする」こと。感情的に叱るのではなく、事実(Fact)を示しながら正しく指導する。この「正しい叱り方」を管理監督者が身につけ、実践し続けることで、行為保証は個人のスキルから組織全体の「文化」へと根付いていきます。
まとめ:「儲かる現場」は文化からつくられる
遠藤メソッドが目指すのは、単なる手順書の整備でも、一時的な改善活動でもありません。
・ヒューマンエラーを「結果」として捉え、その根本原因(暗黙知の欠如)に向き合う
・「行為保証」によって、プロセスを具体的・客観的に定義する
・管理監督者が主導して習慣化を推進し、やがて組織の文化として定着させる
この3つのステップを通じて、世代交代に左右されない、永続的に安全で高収益な現場を実現することができます。「ちゃんとやれ」という一言で済ませてきた現場が「なにを」「なんで」「どのように」という問いを持つ現場に変わるとき、はじめて本当の意味での「儲かる現場」が生まれます。現場の変革は、方法論ではなく文化から始まります。
行為保証2.0の取り組みについては、お気軽にお問い合わせください。