結論として「手順を守っても不良は出る」という事は、現場を経験した人は知っています。
しかし多くの人、特に現場の作業経験がない人は「手順を守っていないから失敗する」と勘違いします。失敗しないために「絶対してはいけないこと」「絶対しなければならないこと」は「手順」と別に「ノウハウ(カン・コツ・急所)」として存在します。手順とノウハウは全く別もので、その目的も、教えるタイミングも、管理も違います。「ノウハウを手順に落とし込む」という考え方が主流ですが、ノウハウを手順に落とし込むとノウハウは消えてしまいます。

<置きビスの事例>
「水メカ」(水流を感知するとスイッチが入る樹脂製のセンサー)を組み立てる際に出る不良では、樹脂部品のビスのマチが深く「ビスを置いてから」電気ドライバーでビスを垂直に起こしながら閉めていく作業を行うと、樹脂で出来ているため、斜めでも電気ドライバーの回転が始まれば、ビスが入ってしまい「斜めビス」が発生します。締結する力は弱いので、検査で水を流しても水漏れはなく検査には合格します。しかし、実際に使ってみると、高圧で水が流れると少しだけ水漏れする厄介な不良が出ます。この不良をなくすために取った対策は「置きビスを止める」ことでした。対策は上手くいき「斜めビス」による水漏れ不良はなくなりました。これをノウハウとして残そうと手順に落とし込むと「電気ドライバーの先端にビスを取り付けて、垂直にビスを締める」です。ノウハウである「置きビスをしてはいけない」ということはどこにも記されません。手順に落とし込むと、ノウハウが消えしまう事例です。
「手順の目的」は、仕事の流れを理解するためで、覚えてしまえば使うことはありません。また、実際には手順を理解している人が教えないといけないので、やって見せて説明し、やらせてみて確認します。結果的に手順書を使うことはほぼありません。
「ノウハウの目的」は、失敗しないために、必ず判断(どの五感で、どんな基準を)しなければ、失敗につながるポイント、作業で「絶対してはいけないこと」「絶対しなければならないこと」です。ノウハウ(必ず判断しなければならないこと)を実践するには、無意識の意識化(習慣・くせ・体に覚え込ませる)することで、身につけることが出来ます。これは、教育だけでなく、出来るまで繰り返し訓練(練習)が必要です。
手順でも、繰り返し動作(習慣)は身につきますが、それはあくまで動作の習慣です。手順では、失敗しないためにしなければならない判断が形骸化します。判断を習慣化するには、手順や出来映え基準では表現は曖昧で、理解できず伝えることが出来ません。

<指差し呼称の事例>
安全確認に「指差し呼称」が決め事になりますが、形骸化し、指を指す動作だけで、何も見ておらず事故が起こることがよくあります。これは「指差し呼称」という安全確認のやり方(手順)を決め事に守らせたため、指を指す動作の習慣だけが残り、指を指した先が安全かどうかの判断が形骸化した事例です。
手順書、作業基準書、作業標準、手順とノウハウを記載したという作業要領書、SOPの類は「確認する」という、見て判断するのか、ツルツル、ザラザラを手で感じるのか、カチッという音を聞くのか、鼻を突く匂いを嗅ぐのか、どんな基準を、どの五感で、判断すのか、曖昧で明確ではありません。手順で教えても、作業で失敗しないために、必ず判断しておかなければならないことは、どこまでも曖昧で、理解できず、ましてや、身につけなければならない無意識の意識化(習慣化)にはならないのです。

<ビス浮き不良の事例>
「ビスの確認」で伝え、守らせても、次の作業に無意識に目線が移ったり、声掛けで目線が移ったり、無意識に目線を外していることは気づかず、見ているつもりで、ヒューマンエラーやポカミスなど、「うっかり」「思い込み」「勘違い」と理由づけしているミスはなくなりません。ビスの着座に目線を当てて着座を判断することを明確な判断基準(品質に作用する点)を感覚的なイメージが出来るように伝え、理解させ、そこを必ず見る訓練(練習)することで、無意識の意識化(習慣化)することが出来て、必ず見る(10/10回、判断する)ことができ、初めて失敗はなくなるのです。